2017年4月15日土曜日

第1章 原子構造 まとめノート2

 これは第1章 原子構造のまとめノート1の続きである。今回は水素型原子で得られた情報を、多電子原子にどのように活かすかを学習する。また、遮蔽と貫入について学び、同じ主量子数の副殻が多電子原子においては縮退しなくなるということを学習する。

多電子原子の構造

 水素型原子の場合というのは、電子が1個しかない場合であり、したがってシュレディンガー方程式が厳密に解けた。しかしながら、電子が2個以上になってしまうと、電子間反発相互作用の項が加わり、もうそれだけで厳密に解けなくなってしまう。

 そこで、多電子原子について次のような3個の発想のもとに近似をする。

1.多電子原子においても、各電子は水素型原子のときに倣って、配置される。

2.電子間の反発で得られそうな結果を最初からシュレディンガー方程式に当てはめてしまう。(つまり、最初から電子の相互作用を考えたポテンシャルエネルギーを試しに代入してしまうということ。)

3.ある電子の動きに注目する場合は、それ以外の電子の分布関数を電荷密度に置き換えてしまう。(本来は電荷密度と電子の存在に関する確率密度は別物である。また、この近似は他の電子を固定する方法であると捉えてほしい。)

 このような発想のもとで、変分法や摂動論といった計算方法によって、例えば、ヘリウム原子の有効核電荷などが得られるのだ。

 さて、電子間相互作用のせいで、核の遠くにいる電子は他の電子に邪魔されて、本来受けるべき引力よりも小さな引力しか享受できないのは明らかであろう。これがいわゆる遮蔽である。

 また、いろいろな軌道の分布関数を重ねて、照らし合わせてみよう。例えば、1s軌道と2s軌道の分布関数を照らし合わせてみよう。
 このとき、2s軌道の電子に注目して、近似方法3を適用する。すると1s電子のピークの内側にも2s電子の山が存在することがわかるであろう。つまり、1s電子の電荷密度のピークの内側にも2s電子は存在しうるということである。
 ガウスの法則的に、1s電子のピークの内側に入ってしまえば、1s電子の邪魔は受けにくくなるわけである。つまり、遮蔽の効果が小さくなるということである。これが貫入である。

 遮蔽と貫入の仕方はs軌道やp軌道それぞれによって異なるということがわかるので、その結果同じ主量子数を持っている副殻は縮退しないということがわかる。


2017年4月14日金曜日

無機化学ゼミ 第2回 量子数の導出と多電子原子

 第2回は2017.04.21金曜日の6限に、前回と同じ中央図書館2階セミナー室で開催する。次のことを予定している。

・3次元極座標におけるシュレディンガー方程式を解く過程で現れる、3個の量子数について述べる。

・ヘリウム原子についてでさえ、厳密にシュレディンガー方程式を解くことはできない。このとき、何がシュレディンガー方程式を厳密に解けなくしているのか、どうすれば水素型原子で使ってきた手法を使えるようになるのかについて議論する。

無機化学ゼミ 第1回 開催報告

 2017.04.14に第1回 無機化学自主ゼミを開催した。各メンバーと自己紹介を行った後、教科書に関する紹介をして、第1章の導入を行った。

・水素型原子に関して、シュレディンガー方程式と波動関数について議論し、その後球面におけるシュレディンガー方程式を解いたものとした。計算に関しては次週に回す。

・シュレディンガー方程式を解いた際に現れる量子数に関して、記号、物理的な意味、化学的な意味、量子数の制限について述べた。

2017年4月12日水曜日

無機化学ゼミ 第1回 イントロダクション

 4月14日(金曜日)6限(16:30~18:00)に、筑波大学中央図書館2階セミナー室にて第1回「かゆいところに無機化学」自主ゼミを行います。飛び込み参加等も歓迎いたします。
 当日は下記の内容について申し上げたいと思います。ご覧ください。

 ・ゼミの進め方・運営方法について
 過去の記事「ゼミ参加希望のみなさまへ~具体的な連絡」でもお伝えしたことを振り返ったのちに、質問対応を致します。また、補足説明等もございますので、よろしくお願いいたします。

 ・第1章 原子構造の導入
 第1章 原子構造ではどのような方針で学ぶのかを示したいと思います。「SA無機化学(上)」第6版pp.6-19を扱っていきます。内容としては次の2点を目指します。

・水素型原子について、波動関数、量子数、電子配置、軌道の形がどのようになっているのかを対応させること。

・多電子原子において、水素型原子の考察で得られた情報をどのように活かしていくのかということを学習すること。


2017年4月11日火曜日

第1章 原子構造 まとめノート1

第1章           原子構造 まとめノート

到達目標: 電子配置と原子の構造を量子力学の視点と化学の視点から解析し、そこから得られた情報をそれぞれの視点で対応させる。具体的には、波動関数、量子数、軌道の形、電子配置の4者の関係を明確にリンクさせることを目指す。

水素型原子の構造

 量子力学は波動関数がなければ始まらない。そこで、3つの視点から定性的に、波動関数を考えたい。

・波動関数はどこから得られるのか。
 シュレディンガー方程式の解として得られる。このとき、例えば3次元極座標を用いて解を求めると、3個の量子数が必要となり、解はとびとびの値を取らざるを得なくなる。

・波動関数の性質1
 波動関数の2乗は電子の存在に関する確率密度である。

・波動関数の性質2
 波動関数が0と交わる場所は節、節面を表す。例えば、2p軌道の波動関数を調べてみると、角度方向について1回0を通過する点が存在する。これがp軌道の八の字のような軌道を表現している。

 さて、シュレディンガー方程式を解く過程で、3個の量子数が出現することを述べた。また、電子自体もいわゆる“自転”のような2通りのうちのどちらかのスピンを持っている。

表1 量子数と量子力学的解釈と化学的解釈の対応関係
量子数
文字
量子力学的な解釈
化学的な解釈
具体例
制限
主量子数
n
エネルギー準位
電子殻、周期
1s1など
自然数
方位量子数
l
角運動量の大きさ
副殻
2ppなど
0以上n-1以下
磁気量子数
ml
軌道の向き
副殻の種類
pxpypzなど
-l以上l以下
スピン磁気量子数
ms
電子のスピンの方向
電子の入り方
↑↓
±1/2

 ここで、量子数の制限に関して注釈を加える。3次元極座標系におけるシュレディンガー方程式は動径の部分と角度の部分に変数分離して解くことになる。このとき、ラゲール陪関数の数学的要請にしたがって、lの値はnによって制限される。また、球面調和関数(正確にはルジャンドル陪関数)の数学的要請にしたがって、mlの値がlによって制限される。 

参考文献は「第1章 原子構造 メモ」で示してある。

2017年4月10日月曜日

演習問題の扱いについて

 「SA無機化学(上)」第6版の演習問題に取り組んでいく所存である。雑誌論文を用いた問題が多い。そこで、これらの問題に取り組むための指針を示しておきたい。
 直近では1章 原子構造の演習問題1・3, 1・6, 1・7に取り組むつもりである。

予習段階での流れ
1.読み進めていてわからない単語・表現等があればリストアップする。(恥ずかしがらずにわからない単語などをリストに入れてほしい。これをゼミメンバーでまとめて共有財産としたい。)

2.論文の流れ・要旨を簡潔にまとめる。(具体的には、(長さにもよるが、)100字程度であると嬉しいか。)

3.設問に答として妥当な答案を作る。

ゼミ当日の流れ
1.扱う論文に関して、皆がリストアップした単語をまとめる。

2. 解釈について疑問があれば、それを議論する。

3.設問に対する模範解答を作成する。また、作ってきた答案を批判する。

第1章 原子構造 練習問題に対するコメント

 「SA無機化学(上)」第6版の練習問題(場合によっては演習問題も)に対するコメントを述べていく。参考になるか否かは読者に任せることとする。

 今回は第1章の練習問題を扱う。(pp.36-37)

1・1 電子が1個しかないということが分かっているので、水素型原子としてエネルギー順位を考えればよいという予想がつく。あとは式に当てはめるだけで答えが出るであろう。

1・2 用いたい座標系の体積要素がどうなっているのかを考えるとよいのではないだろうか。3次元の座標に関して、体積要素を知りたければ、解析学の教科書を調べるとよい。

1・3 イオン化という現象を”電子”を主語にして説明するところから始めよう。さすれば数式化も苦ではないはず。イオン化エネルギーを説明させる問題としては良い問題であると思う。

1・4 多電子原子になった瞬間に、扱い方が違ってくるという点を押さえておけばよい。

1・5 状況を整理しよう。「放射光をクリプトンに照射する」という行為によってエネルギーを与えた。すると、ある速度で「電子が放出された」とあることから、電子が自らがいた準位から、無限遠方に飛んで行ったということを示唆している。また、「放出された」電子が速度を持っていることから、運動エネルギーを持っているということが分かる。このとき、エネルギー保存則を考えるとよい。

1・6、1・7、1・8 水素原子について問われているので、問題なくエネルギー準位の計算ができるはずである。あとはエネルギー準位の差を計算すれば良い話である。

1・9 答え自体は教科書を読んでいれば見つかるであろうが、”なぜ主量子数が方位量子数を制限するのか”ということを答えようとすると難しいのではなかろうか。

1・10、1・11、1・12 教科書を読んでいればわかる問題かと思われる。詳しいことを知りたければ、物理化学の量子論に関するページや量子化学に関する本を読むとよいのではなかろうか。

1・13 動径分布関数の違いに関して、横軸と交わらないかそうでないかを述べ、それが動径分布関数の違いにどのような現れるかを論じ、最後にそれをそれぞれの軌道の図に照らし合わせるとよいのではないだろうか。

1・14 特殊関数や物理数学、量子力学、量子化学の教科書から2p, 3p, 3d軌道の動径分布関数を引用または計算し、極大を示す位置がどこであるかを考えるとよいのではないだろうか。

1・15、1・16 教科書に記述がある。探せば見つかるはずである。

1・17 解答が複数考えられることに注意せよ。

1・18 スレーターの経験則を用いればよい。また、電子数が増えればそれだけ反発力も大きくなるということを示せばよさそうである。

1・19 巻末の付録を用いて、クロムとマンガンの電子配置を調べるとよい。d-ブロック金属などに関しては、スピンの対称性によって、安定性が、短絡的に考えた予想と異なることがある。

1・20 d-ブロック金属の有効核電荷については、別の記事を参照してもらえればよい。

1・21 巻末資料からそれぞれの原子についての第1イオン化エネルギーの大きさを並べてみるとよい。また、ランタノイド収縮とはなんであるかを思い出し、最後に有効核電荷とイオン化エネルギーとの関係を思い出すとよい。

1・22 d-ブロック金属の電子配置を調べれば答えはすぐ出るはずである。また、演習問題1・6と一緒にやるとより学習に役立ちそうである。

1・23、1・24、1・25 基礎化学でも触れられそうな問題である。ただし、スピンの対称性が成立するときには注意が必要である。(d軌道に5個の電子が入るときなど。)

1・26 電子の数の和をとってもらえれば、原子番号がすぐに分かるのではないだろうか。

1・29 ランタノイド収縮について考えればよいのではないだろうか。